「棟瓦」「熨斗瓦」など瓦屋根の各名称と役割を解説
日本では古くから伝統的に瓦の屋根が好まれてきました。
しかし瓦屋根と一口にいっても実はすべて同じ名前ではなく、細かく場所ごとに分かれており、その一つ一つに名称がついていて役割を果たしています。
「鬼瓦」のような知名度が高い瓦だけでなく「棟瓦」「熨斗瓦」と呼ばれるような瓦もそれらに含まれています。
実際に瓦屋根にお住いの方も、「この部分はなんて瓦?形は違うけど分からない」という方が多いかと思います。
そんな様々な瓦の役割などを知ることで、劣化の点検やメンテナンスの重要性にも触れることができます。
そこでここでは瓦屋根につけられている個別の名称や果たしている役割について紹介していきたいと思います。
屋根のそれぞれの部位の名称について
みなさん屋根については「 屋根 」とそのまま単独で考えられることが多いのですが、その屋根の中にも場所によってそれぞれ名称がついており、役割が違っています。
その場所によって使用される瓦も違ってきますので、まずはその部位の名称について述べていくこととします。
「棟」とは
棟とは簡単に説明すると、屋根のもっとも高い位置にある水平になっている平たい部分です。
綺麗な三角の屋根で例えると、天辺の重なる部分が棟と呼ばれる箇所です。
屋根材を屋根に設置していく時には軒からこの棟に向かって並べられていき、棟でそれらをまとめてそこでバラバラにならないようにするという役割をこなしています。そういった意味でも屋根の中で非常に重要度の高い部位と言えます。
ただ、棟といってもさらに細かい部分によって名称が違っており、
・棟の一番高いところが「大棟(おおむね)」
・大棟から屋根の四隅に向けて下っていく部分が「下り棟、隅棟(すみむね)」
・下り棟が軒の先端部分で二つに分かれたときの短い方が「稚児棟(ちごむね)」
と呼ばれています。
稚児棟に関しては、一般的な住宅では少なく、主に寺社仏閣に見受けられます。
屋根材をまとめているこの棟部分が崩れたりしてくると屋根材の固定力が低下することとなり、屋根全体の安定性が大きく低下することとなります。
そういった意味でも棟は重要部位だと言えるでしょう。
「平部」について
屋根の中でいちばん広い面積を誇る部分で、屋根材そのものがこれに当たるとも言えます。
屋根を作り出すうえでもっとも幅広い面積となる部分で、日差しを防ぐ、雨を防ぐといった基本的な役割を果たすこととなります。
この部分は瓦屋根の場合は屋根材となる瓦を設置していくこととなる部分です。
「谷部」について
谷部と呼ばれている部分は平部同士が合わさっているところとなります。
ここに降った雨が流れていき、その水を一時的に溜めて軒に向かって流していくという役割を果たしています。
雨樋と同じ役割をもつことから谷樋などとも呼ばれています。
下の方から建物の屋根を見上げても目立つ部分ではないため、気づかれないことも多いのですが雨水をいつまでも屋根の上に溜めておくことがない状態にするという大事な役割を果たしています。
「ケラバ部」について
こちらも名称は知られていることがあっても、どこにあってどのような役割をこなしているのかはあまり知られていない部位です。
ケラバは片流れ屋根、もしくは切妻屋根の妻側に相当する端部分のことを言います。
このケラバは外壁がある部分より外側に張り出していることで、外壁に太陽光や雨水が直接当たることを防ぐという役割を果たしています。
またこのケラバがあることによって日当たりも変わってくるため、室内への日当たりの具合や室内温度の調整なども兼ねています。
ケラバ部をふさいでいる板のことを破風板といいます。
「軒部」とその周辺の部位について
軒部とは建物の外壁よりも外側に出っ張っている部分の屋根を指しています。
軒部分の天井は軒天と呼ばれ、皆さんもどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか?
こうした軒があることによって外壁に直接雨が当たることを防いだり、窓が開いている場合に室内に雨が吹き込んでしまうことを防ぐことができます。
また、軒部の中でも特に先端の部分を軒先部といいます。
軒先部には雨樋が設置されていますので、雨樋がついているところが「軒先」と覚えるのが簡単かもしれませんね。
天気が悪い日に屋根に降った雨水がこの雨樋に集められて適切に外部に排出されていくことによって雨が飛び散ってしまう、外壁に水が流れるということを防いでいます。
さらに軒先の先端部分には鼻隠しと呼ばれる板があり、破風板と合わせて雨から外壁を守っています。
それぞれの場所で使用されている使われる瓦の呼び名と役割
瓦は屋根のどの部分でも同じ瓦を使うわけではなく、部位によって使い分けがなされています。
ここではそれぞれの部位で使用される瓦について述べていきます。
桟瓦(さんがわら)
桟瓦は一般的な瓦としてイメージされやすい瓦となっています。
瓦が波形という特徴的な形状をしており、歴史のある代表的な瓦です。
波打った形状のものを桟瓦としており、それ以外のものは桟瓦とは呼ぶことはありません。
近年では、屋根の軽量化の観点から土葺き工法から、桟木に瓦を引っ掛ける「桟葺き」が主流となっており、瓦を一枚ごとに釘で固定するようになっています。
耐久性も高く、瓦のズレにも強くなっており、割れや欠けが起きた際にも1枚単位で交換することが可能となっています。
とても扱いやすく、使いやすいといった点についても桟瓦のメリットだと言えます。
軒瓦(のきがわら)
軒瓦とはその名前が表す通りに軒先に設置される瓦です。
軒瓦は瓦の凹んでいる部分を水や雪などが通ることで外部に排水できるようになっています。
この軒瓦が正常に機能していると水をうまく通して外部に排水することができるため、屋根に水が溜まるということがありません。
外から屋根を見上げたときに瓦の中でも見えやすい位置にある瓦ですので、家紋を入れたり、好きな絵柄を入れるなどデザイン性に富んだ瓦が多いという特徴があります。
目立つ瓦なので目にすることも多いでしょう。
雪止瓦(ゆきどめがわら)
雪を止める瓦という名前がついている通りに雪を止めるためにある瓦です。
軒先から数えて3段目~4段目あたりの位置に設置されている、盛り上がった形状をしています。
豪雪地帯などで降って屋根の上に溜まった雪が塊のままで下に落ちないように滑り止める効果を持った瓦です。
豪雪地帯の中でも特に雪が多い地域では雪止瓦を2段設置することで雪の抑止力を向上させるという場合もあります。
さいたま市を含め、雪があまり降ることのない地方ではあまり見ることのない瓦と言えます。
熨斗瓦(のしがわら)
屋根のもっとも高い位置にあるところを「棟」と呼びます。
この棟にある棟瓦の下部分に重ねて設置してく瓦が熨斗瓦(のし瓦)です。
熨斗瓦は水切り、雨除けなどの役割を果たしている重要な瓦です。
いくつもの熨斗瓦をわざと少しずつずらして段を作ることによって屋根の内部、屋根裏、室内などに向けて雨水が浸入していくのを防いでいます。
また。この熨斗瓦は原則として二つに割って使うのが一般的な使いかたとなる瓦でもあります。
瓦なのに「割れる」という瓦では珍しい特徴を持っています。
この「二つに割れる」という特性を利用して、空手の演武などで使用される「瓦割り」において使用される瓦としても有名です。
他の瓦を使って瓦割りをすると瓦が硬すぎて割れなかったり、強い衝撃で粉々になったりするために綺麗に瓦割りをすることはできません。
棟瓦(むねがわら)
屋根の「棟」に設置するのが「棟瓦」です。
使用する瓦が和瓦の場合は棟の部位に熨斗瓦と棟瓦を数段積んで構築していくという「棟積み」と呼ばれる積み方が一般的です。
棟積みの一番高い位置に設置される瓦のことを一般的に「棟瓦」と呼んでいます。
そして棟瓦の中でもいくつかの種類に分かれており、それぞれに名称がついています。
✅まず「冠瓦」です。
この瓦は江戸冠と呼ばれることもあります。
瓦の上側の部分には紐を丸めたような形の模様がついており、熨斗瓦の上に置かれるものです。
丸みがある形状をしていることによって瓦に水が溜まりにくい特徴をしています。
✅次に「七寸丸冠」です。
少し大きめの瓦であり、洋風建築で多く使用される瓦です。
洋瓦を使用するときには棟積みを行うことがないので、棟瓦を使用することで隙間を埋めていかなければいけません。
隙間を埋めるためには横幅が広い瓦の方が効率的なのです。
✅最後に「平伏間」です。
平たいという名前が入っている通りに平たい形状の瓦です。
瓦というと波型のような曲線の瓦が多いのですが、この平伏間は平たい形状をしていることで隙間を埋めやすくなっています。
また、丸みがないことで重厚感を出しやすいという特徴もあります。
鬼瓦(おにがわら)
鬼瓦は伝統的な日本家屋の屋根の棟端部分に設置されている役瓦です。
屋根の頂上部分の水平になっている部分は「棟」と呼ばれているのですが、その棟の両端に設置されている瓦が「鬼瓦」となっています。
鬼瓦という名前が表す通りに「鬼の顔」をデザインした瓦もありますが、すべての鬼瓦が必ず鬼の顔のデザインをしているわけではありません。
鬼瓦の中には鬼の顔だけでなく、雲の形や波をイメージしたデザインも数多くあります。
このように鬼の顔のデザインの瓦でなかったとしても、棟端に設置されている瓦は全て鬼瓦と呼ばれます。
欧米では、怖いものの象徴とされているメデューサは家の入口付近、玄関などに置物として設置することで外から家の中に悪いものが入ってこないようにするという魔除けの効果があると期待されています。
こうして日本でも鬼瓦が魔除け、厄除けとして屋根に設置されるようになっていいったとされています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
瓦の中にも「棟瓦」「鬼瓦」「熨斗瓦」などさまざまな種類があり、それぞれに果たしている役割が違っています。
是非、瓦屋根に住まいのお客様は一度ご自宅の瓦を見てみてください。
どこがなんの瓦でどんな役割があるのか、目で見ることで印象も変わってくるかと思います。
また、漆喰を初めひび割れやズレなどの症状が見られましたらお気軽にご相談下さい。
ウェルスチールでは数多くの瓦屋根に関する実績がございます。
是非、施工実績ものぞいてみて下さいね。