折板屋根の劣化症状やメンテナンス方法について解説
工場や倉庫をお持ちの方々の中には、建物の屋根の状態をあまりよく把握していない方もいらっしゃるかもしれません。さまざまな屋根の形がある中で、広い空間を必要とする建物によく見られるのが折板屋根です。
折板屋根は平らな形をしているため、普段目にする機会が少なく、傷みの初期段階を見逃しやすいのが難点です。そのため、気づかないうちに損傷が進んでしまうことがあります。また、屋根の種類によって傷み方や適切な手入れの方法が異なることも覚えておくべき大切な点です。
この記事では、折板屋根の取り付け方法、傷みの兆候、そして効果的な手入れの仕方について詳しくお伝えします。
折板屋根の特徴と構造
折板屋根は、大規模な建築物に適した屋根工法です。主に工場、倉庫、体育館などに使用され、その特徴は以下の通りです。
・構造:薄い鋼板を折り曲げて台形状に成形し、高い強度を実現
・長さ:非常に長い屋根の施工が可能
・材質:かつてはトタン(亜鉛メッキ鋼板)が主流でしたが、現在は耐食性に優れたガルバリウム鋼板が一般的
・耐震性:軽量な材料を使用しているため、地震に強い
・施工:タイトフレームと呼ばれる金具を使用して設置し、野地板が不要なため工期短縮と費用削減が可能
一方で、折板屋根にはいくつかの課題もあります。
・遮熱性、遮音性が低い
・夏場は室内温度が上昇しやすい
・雨音が響きやすい
これらの問題に対処するため、断熱材の使用や二重構造の採用など、様々な改良方法が開発されています。
折板屋根の施工技術と形状加工
折板屋根の設置方式と形状加工には、以下のようなバリエーションがあります。
・重ねタイプ
・はぜ締めタイプ
・嵌め込みタイプ
・二重葺きタイプ
・わん曲加工
重ねタイプ
積層式は折板屋根の中で最も一般的な設置方式です。構造梁に取り付けられたタイトフレームから突出したボルトに、2枚の屋根パネルの端を重ね合わせ、ナットで締め付けて固定します。シンプルな構造ゆえに高い強度を持ち、耐風性に優れているため、強風地域やカーポート、自転車置き場などでよく採用されています。ただし、露出したボルトとナットは経年劣化により腐食する可能性があるため、定期的な点検が必要です。
はぜ締めタイプ
はぜ締めタイプでは、タイトフレームに取り付けられた特殊な金具に屋根パネルの端を引っ掛け、折り曲げ部分を圧着して固定します。ボルトやナットが外部に露出しないため、腐食の心配が少なく、雨水の侵入も防げます。また、部品が少ないため施工コストを抑えられ、見た目も美しく仕上がります。ただし、積層式ほどの耐風性は期待できません。
嵌め込みタイプ
嵌め込み式は、タイトフレームに設置された吊り金具で屋根パネルの端を固定し、その上からキャップを嵌めて留める方式です。折り締め式と同様に外部にボルトが露出しないため美観に優れていますが、より高度な施工技術が必要となるため、コストは上昇します。
重葺きタイプ
重葺きタイプは、居住性の向上を主な目的とした設計です。屋根パネルを二重に重ね、その間に断熱材(例:グラスウール)を挿入することで、室温の安定化と騒音の軽減を図ります。この方式は、金属屋根特有の断熱性と遮音性の弱点を補完する効果的な手法です。
わん曲加工
わん曲加工は屋根パネルの形状を変える加工技術の一つです。軒先を湾曲させることで、雪や氷柱の自然落下を促進し、建物の軒先や外壁を保護すると同時に、風雨の侵入を防ぎます。また、屋根全体をアーチ状に成形することもあり、この形状は体育館や多雪地域の建築物でよく見られます。曲線を取り入れることで、建物の美的価値も高まります。
折板屋根の経年変化と損傷の兆候
折板屋根に現れる経年変化や損傷の兆候には、以下のようなものがあります。
・表面コーティングの劣化と白化現象
・酸化による錆や腐食
・穴などの損傷
・電蝕
表面コーティングの劣化と白華現象
経年変化の初期段階で見られるのが、表面コーティングの劣化と白華現象です。白化現象とは、屋根表面に触れると白い粉状の物質が付着する状態を指し、保護層の劣化を示しています。この現象を放置すると、表面に小さな膨らみが現れ始め、やがて酸化による変色へと進行します。また、着色された屋根材の場合、色あせが目立つようになります。
酸化による錆や腐食
表面コーティングの劣化に続いて発生するのが、酸化による変色です。折板屋根の主材料であるガルバリウム鋼板は耐食性に優れていますが、完全に酸化を防ぐことはできません。初期の変色を放置すると、より深刻な腐食へと進行します。進行した腐食は屋根材の表面を著しく損傷し、赤褐色に変色させ、表面を粗くします。特に、重ね合わせ式の屋根では、露出した固定具が先に腐食し、雨水によって腐食物質が屋根全体に広がることがあります。
穴などの損傷
腐食が長期間進行すると、影響を受けた部分が脆くなり、最終的には穴が開くことがあります。また、重ね合わせ式の屋根では、固定具の腐食が固定部分にまで広がり、屋根材の安定性が損なわれる可能性があります。
電蝕
異種金属接触腐食は、性質の異なる金属が接触し、水分にさらされることで起こる現象です。これは、例えば屋根材と固定具のような異なる金属の組み合わせで発生し、銅を含む防腐剤処理された木材とガルバリウム鋼板の接触でも起こり得ます。通常は耐食性の高いガルバリウム鋼板やステンレス鋼が予想外に早く腐食する場合、この現象が原因である可能性が高いため、慎重な検査が必要です。
折板屋根のメンテナンス方法
折板屋根の長寿命化と機能維持のための主な方法は以下の通りです。
・塗装
・カバー工法
・全面改修
塗装
塗装は劣化の初期段階で実施するのが効果的です。適切な塗装時期は、色あせや白亜化が始まり、部分的な膨れが見られる頃です。特に重ね合わせ式の屋根では、固定部品の劣化が早いため、早めの対応が重要です。塗装は見た目の改善だけでなく、防水性能の向上や汚れの付着を防ぐ効果もあります。ただし、著しい錆びや穴が開いている場合は、塗装ではなく部分的な補修や交換が必要となります。
カバー工法
カバー工法は、既存の屋根を残したまま、新しい屋根材を上から被せる方法です。雨漏りが発生している場合に特に有効で、新旧の屋根の間に断熱材を入れることで、断熱性能や防音性能を向上させることができます。ただし、屋根の重量が増加するというデメリットがあります。
全面改修・葺き替え工事
全面改修は、既存の屋根を完全に撤去し、新しい屋根材で再施工する方法です。最も大規模な改修方法で、工期が長く、撤去・処分にかかる費用も含めて高額になります。また、工事中は建物内部が露出状態になるため、工場や倉庫などでは業務の中断が必要になる場合があります。
まとめ
折板屋根は、その軽量性、加工のしやすさ、そしてコスト効率の良さから、多くの建物で採用されている優れた屋根です。本記事では、その構造や経年変化、そして効果的なメンテナンス方法について詳しく解説してきました。
折板屋根の技術は日々進化しています。かつて主流だったトタンから、現在では耐食性に優れたガルバリウム鋼板へと進化。さらに、施工方法も改良され、より美しく効率的な固定方法が開発されています。
しかし、どんなに優れた屋根でも適切なケアが欠かせません。定期的な点検と早めの対応が、雨漏りや腐食を防ぎ、長期的には大きなコスト削減につながります。折板屋根の特性を理解し、適切なメンテナンスを行うことで、建物を長く美しく保つことができるのです。
皆さまの建物の屋根は大丈夫でしょうか?この機会に、ぜひ一度チェックしてみてください。適切なケアで、建物の価値を長く維持しましょう。