「棟瓦」「熨斗瓦」など瓦屋根の各名称と役割を解説
日本では伝統的に瓦屋根が使われていることが多くあります。
しかし瓦屋根と一口にいっても実は多くの部位があり、それぞれに名称がついていて役割を果たしています。
「棟瓦」「熨斗瓦」などもその一種です。
そこでここでは瓦屋根のそれぞれの名称や果たしている役割について紹介していきたいと思います。
「棟瓦」とはどういったものか
「棟瓦」はその名前の通りに屋根の「棟」と呼ばれている場所で使用される瓦です。
ここでは棟瓦の種類や果たしている役割について紹介していきます。
棟瓦の概要とは
屋根の中でも「棟」と呼ばれる部位ですが、この棟とは屋根の頂上部分に水平になっている屋根のもっとも高い位置にある部分を指しています。
この棟の部分に設置されるのが「棟瓦」です。
使用している瓦が和瓦の場合は棟の部位に熨斗瓦と棟瓦を数段積んでいくという「棟積み」が一般的です。
この棟積みの一番高い位置に設置する瓦を一般的に「棟瓦」と呼んでいます。
下に積まれている熨斗瓦の隙間に被せるように施工することで棟から内部に雨水が浸入することを防ぐことができます。
洋瓦を使用している場合は、熨斗瓦を使っての棟積みを行わないため、棟瓦だけを使用して設置していきます。
棟積みを行い、棟瓦を設置することによって「建物内部に水が入りにくくなる」というメリットがあると同時に建物に重厚感のある風格を持たせることができるというメリットもあります。
棟瓦の種類にはどういったものがあるか
棟瓦はいくつかの種類があります。
ここではそれらの棟瓦の中でも一般的に使用されるものを紹介していきます。
・冠瓦（江戸冠）
瓦の横幅が5寸（約16cm）ほどで、瓦の上部分に丸まった紐の模様がついている瓦です。
和瓦の中でももっとも一般的でよく使われている棟瓦となっており、外から見たときに棟を高く見せる効果があります。
また、瓦の形状が丸みがあるフォルムとなっているため、水はけがよく、建物内部に雨水を侵入させにくい形状をしています。
・七寸丸冠
こちらは瓦の横幅が7寸（約23cm）ほどの瓦で洋瓦に多く見られる棟瓦です。
洋瓦では棟積みを行わないため、棟瓦で隙間を埋める必要があります。
そのために横幅が広い棟瓦が必要となってくるのです。
洋風の建物に合う瓦となっており、そういった建物で多く使われています。
・平伏間（ひらふすま）
こちらはその名前の通りに平たい形をした棟瓦の一種です。
一般的な瓦のように丸みを帯びておらず、形状が平たいために隙間を多く埋めることができます。
また、丸みがない形状のため落ち着いた大人しい雰囲気の瓦となっています。
重厚感を求める建物、落ち着いた雰囲気にしたい場合などによく使われます。
・紐付き三角冠
こちらは棟を三角形で引き締める形状をしている瓦です。
屋根全体の印象を引き締まった雰囲気にすることができるため、スマートに見せたい、引き締まった雰囲気にしたいという時に多く使われるものとなっています。
「鬼瓦」とは
棟瓦と並んで一般的な瓦が「鬼瓦」です。
その名前や形状は広く知られているのですが、その役割や重要性はそれほど知られていません。
そこでここでは鬼瓦の概要、種類、役割などについて紹介していきます。
鬼瓦の概要とは
耳にすることが多い鬼瓦は伝統的な日本家屋の棟端に設置されている役瓦のことを指しています。
屋根の頂上部分の水平になっているもっとも屋根の高い部分は「棟」と呼ばれるのですが、その棟の両端に設置されている瓦が「鬼瓦」です。
鬼瓦という名前の通りに「鬼の顔」をかたどったようなデザインのものもありますが、すべての鬼瓦がそういった鬼の顔のデザインというわけではありません。
鬼瓦の中には「雲」「波」などをかたどったデザインのものも数多くあります。
このようにたとえ鬼の顔のデザインでなかったとしても、棟端に設置されている瓦は鬼瓦と呼ばれています。
鬼瓦の役割は「魔除け」「厄除け」
鬼瓦の起源となっているのはギリシャ神話に出てくるメデューサとされています。
メデューサは「恐怖」「恐ろしいもの」を表しており、メデューサの顔を見ると石になってしまうという伝説があります。
このように恐ろしいもの、怖いものを家の屋根に設置することによって「魔除け」「厄除け」としての効果が期待されるとされてきたのです。
欧米においては、メデューサは家の入口付近に置物などを設置することで魔除け効果が期待されていますが、日本においては家内安全、無病息災を願うべき場所である、幅広い範囲を見渡すことができる屋根の上の棟端に設置することとなりました。
棟端に怖いものの象徴である鬼を飾ることで、「鬼に家を守ってもらう」ということを願ったのです。
こうして鬼瓦が魔除け、厄除けとして使用されるようになっていきました。
魔除け以外の役割は
魔除け、厄除けとしての意味合いが強い鬼瓦ですが、実は魔除け以外にも役割が期待されています。
例えば「雨仕舞い」という役割があります。
これは屋根の棟の端にある部分を鬼瓦で保護するように覆ってしまうことによって、雨水が建物の中に侵入しないようにするというものです。
雨水が内部に侵入するのを防ぎ、適切に外部に向けて排出することによって棟の中に水が入らないようにします。
これを雨仕舞いと言い、鬼瓦が行っている役割となっています。
鬼瓦の種類にはどういったものがあるか
鬼瓦には色々な種類がありますが、一般的な家屋に使われるものはある程度絞られています。
ここではそれらの中から主要なものを紹介していきます。
・古代鬼面型鬼瓦（こだいきめんがたおにがわら）
この鬼瓦は非常に歴史が古く、奈良時代以前から存在していたとされる鬼瓦です。
鬼の顔が立体的になっており、迫力、すごみのある顔をしています。
また、鬼の頭に角がないのも特徴となっています。
・覆輪鬼瓦（ふくりんおにがわら）
こちらは鬼瓦という名前はついていますが、デザインは鬼の顔ではなく、雲を形どった鬼瓦です。
雲の形式の鬼瓦は主に魔除けの他に「火除け」の効果があると言われいます。
・蔓若葉鬼瓦（つるわかばおにがわら）
こちらも鬼の顔ではなく、蔓（つる）の模様の鬼瓦です。
鬼の顔のデザインの鬼瓦のような恐ろしさがなく、上品なデザインとなっているので一般的な屋根に合わせやすいものとなっています。
屋根の上、棟端に設置しない鬼瓦もある
鬼瓦は一般的には屋根の上、棟端に魔除け道具として設置されることが多いのですが、屋根に設置するものだけでなく、家の中に設置するというタイプのものもあります。
この場合は魔除けとしてだけでなく、インテリアとしても期待できるものと言えます。
・壁掛けタイプ
基本的に鬼瓦は「高い位置から家内安全を願う」という意味合いがあるため、内壁の高い位置に壁掛けとして飾ることがあります。
本来の意味を重視した飾り方だと言えるでしょう。
効果は一般的な鬼瓦と同様に魔除け、厄除けとなっています。
・据え置きタイプ
こちらは鬼瓦に立てて設置するためのスタンドなどがついているもので、棚、ダッシュボード、下駄箱などの上に飾ることができます。
手軽に移動できるというメリットもあります。
こちらも効果としては魔除け、厄除けが期待できます。
〈棟瓦・鬼瓦に関する施工事例〉
さまざまな屋根瓦の名称とそれらの役割について
鬼瓦、棟瓦が有名な瓦ですが、それ以外にも多くの屋根瓦があります。
ここではそれらの屋根瓦の名称と役割について紹介していきます。
桟瓦（さんがわら）
桟瓦は屋根瓦としてもっともポピュラーな瓦です。
形状は波の形をしており、波の形以外のものは原則として桟瓦とは呼びません。
そのため屋根にある波の形をした瓦をよく見ることがありますが、それは桟瓦ということになります。
桟瓦を設置する際には、野地板の上に固定した「桟木」に瓦をひっかけて施工していくようになっており、割れたり欠けたりした瓦を1枚ずつ交換することが可能となっています。
そういった施工のしやすさ、使いやすさも桟瓦のメリットだと言えるでしょう。
軒瓦（のきがわら）
軒瓦は名前の通り、軒先に設置される瓦です。
軒瓦は中央部分が凹んでいるような形状で、そこを水が通るようになっています。
この軒瓦が正常に機能することで、そこを水が通り、外部に排水することができるのです。
また、外から屋根を見たときにもっとも見えやすい位置にある瓦ということもあって、高いデザイン性のものも多くなっています。
雪止瓦（ゆきどめがわら）
この瓦も名前の通り、雪を止めるための瓦です。
軒先からだいたい3段目ほどに設置されることが多くなっており、豪雪地帯などで雪が塊のまま下に落ちないように滑り止める効果があります。
特に雪が多い地域では雪止瓦を2段にわたって設置することで抑止力を高めるという場合もあります。
雪がほとんど降らない地方ではあまり見ることのない瓦です。
袖瓦（そでがわら）
切妻屋根などで三角形になっている破風部分に使用する瓦です。
「けらば瓦」と呼ばれることもあります。
壁側には雨水を除けるための垂れがあり、屋根の内側部分に水が流れていくのを防ぐことができます。
角瓦 （かどがわら）
この角瓦は軒と破風が交差している部位に設置するための瓦です。
軒瓦と袖瓦を組み合わせたつくりとなっており、雨樋と瓦がぶつからないように先端部分には切れ込みが入っています。
この角瓦の中にも色々な形状のものがあります。
隅瓦（すみがわら）
葺き屋根の隅の軒先にだけに使用される瓦です。
複数の部分に分かれている「切隅」（きりすみ）や、一体になった「廻隅」（まわりすみ）といった種類の隅瓦があります。
巴瓦（ともえがわら）
こちらも同様に軒先に使用する瓦なのですが、丸い形の瓦の先端に巴紋がついていることから巴瓦と呼ばれています。
巴瓦は「火除け」「防火」のまじない効果が強いとされており、火除けの願いを込めて設置されることがあります。
熨斗瓦（のしがわら）
屋根の頂上部分にある棟に設置されている棟瓦の下部分に重ねていく瓦が熨斗瓦です。
熨斗瓦は水切り、雨除けといった役割を果たす重要な瓦でもあり、何枚もの熨斗瓦を少しずつずらして段になるようにして重ねていくことによって屋根の内部、建物の内部に雨水が入ることを防いでいます。
また。この熨斗瓦は二つに割って使用する屋根瓦でもあります。
瓦なのに「割れる」という瓦では珍しい特徴を持っています。
この「割れる」という特徴があるため、空手の演武などで使用される「瓦割り」で使う瓦としても有名です。
他の一般的な瓦では瓦割りをすると硬すぎて割れなかったり、粉々になったりするために瓦割りはできません。
まとめ
瓦の中にも「棟瓦」「鬼瓦」「熨斗瓦」などさまざまな種類があり、それぞれに果たしている役割が違っています。
どの瓦がどういった役割を果たしているのかを知っていきましょう。